にぎやかな桃園市街地から中原路へ入ると、暗闇にパッと光が差したような錯覚に陥る。街の一区画に「本立自然良品」は静かに佇んでいる。表の玄関の枠の部分は古い扁額をつなぎ合わせて作られ、軒先に植えられた「玉蘭花(モクレンの一種)」の木は四階ほどの高さまで伸び、開花シーズンになると芳醇な香りが辺り一面に広がる。そのため、近所の人は一番にその恩恵にあずかることになる。また、一階には中庭があり、イベントを開催するのに最適な場所だ。
店主の林念慈さんと秀蘋さん、琳さんの三姉妹は、もともとそれぞれの分野で活躍していた。念慈さんはネパールで生理用の布ナプキンの普及を促進する「棉楽悦事工坊」を経営、秀蘋さんは台北で手作りジュエリーブランド「BONTE 好物金工」を立ち上げ、琳さんは桃園に根を下ろしていた。そんなある日、三姉妹の脳裏にふいに同じ考えが浮かんだ。「店をやるなら、地元・桃園でやればいいじゃないか」と。

自然をベースにし、大地に生きる
父・林雲鈿さんが営んでいた診療所「博愛診所」は閉業後、長らく使われていなかった。この築四十年の古民家には伝統的家屋によく見られる古びたタイルが敷かれ、アーチ状の外壁には玉蘭の木が伸び、四季を通じて生気をみなぎらせていた。三人は店をオープンさせるため、協力し合って古民家の大改造に乗り出した。「大きな金槌を手に老朽化した壁を壊す時、生まれ変わるような感じがして、胸が熱くなりましたね」。
芸術を学んだ秀蘋さんは、かつての診察室にあった扁額を大胆に裁断し、現代風な机とバーカウンター、椅子、はたまた玄関枠に作りかえた。琳さんは環境にやさしいエコ製品の発掘やイベントの企画を担当し、空間に新しいエネルギーを吹きこんだ。そして念慈さんは台湾とネパールを行き来しながら―と、家族で団結して築四十年の旧診療所に新たな息吹を注ぎ、改めてこの土地とつながる方法を見つけていった。
こうして二〇一五年、古民家は「本立自然良品」と命名された。自然を暮らしの中に活かし、人と土地が「共存し合う」ライフスタイルを取り戻そうという思い、そして、実用的で昔ながらの生活用品を使い、日々のちょっとした行動で環境への負担を減らし、この敬愛する土地を持続可能なものにしていこうという決意が、その名に込められている。
“よく生きる”哲学を伝えるスモールワールド
店に入ると、最初に感じるのはその心地よさ。そして、目に入ってくるのはどれも天然素材を使った環境にやさしい商品の数々だ。ネパール製の綿や麻の織物、生理用布ナプキン、インドのお香、花蓮の手作り石けん、竹製のストローなどが並ぶ。店内に流れているのはやさしいヒーリング音楽で、棚には「好家楽隊」や羅思容、邱俐綾のアルバム『艾納香』など客家歌手やバンドのCDが置かれ、店内でもよく流されている。
また、テーマに沿った講座やイベントも度々企画されている。例えば、土地に感謝の気持ちを示す「桃沃—大地に根を下ろす生活講座」や「ヨガ哲学×仏教讃歌」、「『一族の書』(ウラジーミル・メグレ著)読書会」など、“よく生きる”哲学を伝える桃園市街地の小天地になっている。
「まちづくりなんていうと大げさですよね。だったら、交流とか環境にやさしいライフスタイルを分かち合うとか、そういう言い方のほうがふさわしいと思います。多くの農家やクリエーターが集まって互いの生活を豊かにすることで、この土地の潜在力が見えてくるのです」と琳さんは語る。
秀蘋さんは金属工芸家で、以前は異郷をさすらっていたが、今は自宅の屋根裏で自由気ままに創作活動を行っている。自らの両手でポジティブな考え方を届けたいと考え、作品を身に着けてくれる人のことを心から祝福しながら創作している。アクセサリー箱の外側に刻まれた「両手で実践し、心で確かめる」の言葉のように、心で生活を感じとり、それを金工芸作品という形に変えている。二〇一八年の「台湾文博会(台湾クリエイティブ・エキスポ)」では新作「森之春」を出品したほか、桃園在住のクリエーターたちを集めて「桃印文創」展を催し、多くの人に桃園の芸術のソフトパワーを見せつけた。

好きなことをしていれば、自然と大成する
「本当に何かをしたいならば、挫折や困難は必ずついてくるものです」。念慈さんは以前、ネパールの女性が使い捨ての生理用ナプキンを買えず、さらに現地では月経がタブー視されていることを知り、これが「棉楽悦事工坊」を設立するきっかけになった。繰り返し三年は使える環境にやさしい布ナプキンを生産し、現在では生産者から教育者へと立場が変わった。現地の多くのNGO組織から誘いを受けるパートナーにもなり、二〇一七年にはBBCが選ぶ「今年の女性100人」に名を連ねた。
将来的には、「本立自然良品」のコンセプトをヒマラヤ山脈エリアにまで伝えようとしており、現在は積極的に「Ananda Treehouse」の設立準備に取り組んでいる。Anandaとはサンスクリット語で、「Sat Chit Ananda(サット・チット・アーナンダ=今を生きる(存在)、自発的な気付き(意識)、永遠の悦び(至福))」という意味が奥に込められている。この計画の拠点ではヒマラヤのチベット族の若者に就職の機会を提供し、有機野菜を広め、現地の芸術家を招待し共に働くといったことを行っていく。「棉楽悦事工坊」だけではなく、他の台湾ブランドのエコ製品をヒマラヤに持ち込むなどして、台湾とネパールをつなげることも考えているという。
「本立自然良品」は三姉妹にとって桃園の根っこであり、桃園の人々が喧騒の中で静寂を満喫できるひっそりとした店だ。店はいつでも来訪客を歓迎してくれる。
本立自然良品
03-3325-825
桃園市桃区中原路10号
水曜から日曜まで営業11:00-19:00
ぶらり寄り道:桃園市客家文化館
龍潭にある客家文化館は、桃園の客家文化や生活を体験するにはもってこいの場所といえ、世代を問わず楽しめる。園内にある客家文学館や音楽館、鍾肇政文学館、鄧雨賢音楽館には客家に関する大量の文献資料が保存されているほか、革新的な「参加型博物館」の形式を採用し、来館者はインタラクティブな設備によって客家文学や詩歌の心、そしてその奥深さを体験できる。裏手にある生態公園には緑だけでなく「客家ことわざ歩道」もあり、さらには毎年シーズンになると「油桐花(アブラギリ)」が満開になる。行楽客は都会にいながらして雪のように真っ白な花びらがヒラヒラと舞う光景を楽しみ、客家のロマンチックな風情を感じることができる。
03-409-6682
桃園市龍潭区中正路三林段500号
火曜から金曜まで8:30-12:00、13:30-17:00
土、日曜8:30-17:00、月曜定休日
ぶらり寄り道:夢田自然園
中壢にある「夢田自然園」は、客家の高齢男性が地域の若者に夢を実現してもらおうと自分の土地を無償で貸し出したことから生まれた。共に耕作し、共に食事をとり、共に菜園を育てるという、台湾では極めて珍しい場所だ。園内ではマコモダケやカボチャ、瓜、サツマイモ、カラシナなどを栽培するほか、客家料理の作り方を二十四節気に基づいて教えるなどし、素朴でシンプルな客家精神を発揮している。
0936-898269
桃園市中壢区新中北路890号
はす向かいの田んぼ道
ぶらり寄り道:插天山
桃園市復興区にある「插天山自然保留区」には非常に原始的で壮麗な神木群が広がり、タイワンベニヒノキやタイワンブナ、シダ植物、各種の野生動植物に出会える。ただし、插天山は台湾北部にある中級の山に属し、往復で8~10時間は歩かなければならないという点には要注意だ。登山する際は自分の経験と体力、装備をしっかりと考慮してほしい。