桃園市龍潭区大北坑地区は良質な茶葉の生産地として知られ、エリア内には茶葉工場が点在している。「大江屋客家美食館」はこの地で最初に茶葉工場からレストラン経営に乗り出して成功したモデルケースであり、観光客がこぞって足を運ぶグルメスポットだ。そして、大北坑におけるレジャー観光産業の発展を率いる立役者的存在でもある。

赤レンガ造りの家で味わう客家グルメの真髄

「大江屋」は、その名の通り現地に住む「江さん」一家が営むお店だ。江家の祖先は中国福建省から台湾にやってきて龍潭・大北坑に移り住むと、二十五代目からお茶作りに携わった。当時、江家の茶畑は山いっぱいを占め、周囲十キロ内にある茶葉工場は江家の一軒のみで、高品質の「龍泉包種茶(半発酵茶の一種)」を専門に生産することで知られていた。

昼は茶摘み、夜は製茶」というのが、江家一族に受け継がれる日常風景だ。家族と茶葉農園で働く従業員たちの三食を用意するため、江家の女性陣はみな料理の腕を磨いた。近年、農業をやめて転職する農家が増え始めると、江家の人々はこう考えるようになった。「山へお茶を買いに来てくださるお客さんはみんな、茶畑で味わった家庭料理を絶賛してくれる。だったら、お茶を作りながらレストランを経営して、本場の客家の山グルメを味わってもらうのもいいんじゃないか」と。

そこで、茶葉工場の一部をレストランに改装し、「大江屋」という店名をつけた。初代は母親の劉玉蘭さんが調理場を切り盛りし、長女の江翠玲さんは二代目料理長だ。母親とレストランの料理人から見よう見まねで料理を必死に学び、敏感なその舌を活かして代々伝わる家庭の味を黙々と記録していった。自分の店の料理人であることだけに満足せず、中華料理の調理免許を取得し、客家委員会と客家グルメ交流協会が主催する台湾初の客家料理人認証「客家十三大名料理人」をも獲得。認証を得た台湾唯一の女性の客家料理人となった。二〇一七年には桃園市の代表として日本の香川県へ赴き、「全国年明けうどん大会2017 in さぬき」に参加。交流の成果は好評を博した。

翠玲さんは、客家人には身近にあるもので工夫するという習慣が身についていて、地元の食材を使うことをとても大事にしていると話す。店内で使用する鶏肉は全て自分たちが山で放し飼いにして育てているもので、豚肉は当日さばかれた地元産を選び抜いて使っているという。さらに調理工程の一つ一つにもこだわりがある。「料理と製茶には相通じるものがあります。手順を一つでも疎かにすると、味はすぐ変わってしまいます」。集中して一つ一つの作業をしっかり行えるよう、大江屋は特別な決まりを設けている。「料理を急かさないこと。料理人が怒ります」というものだ。

本場客家のとっておきの手料理

大江屋にはたくさんの人気メニューがある。母親の玉蘭さんは第一線を退いて久しいが、看板メニューの「紅焼焢肉(豚バラ肉の醤油煮)」と「燜土鯽魚(フナのくたくた煮)」は玉蘭さんが毎日自ら調理し、伝統的な客家の味を提供し続けている。玉蘭さんは冷凍肉ではなく、その日屠殺された新鮮な豚肉にこだわる。脂身の均等なバラ肉を油で揚げたあと、醤油と米酒を加えて大鍋で二時間近く煮こむ。水ではなく米酒を使うことで、脂の乗った肉が程よく上品に仕上がり、自然な照りが出る。こうして客家料理特有の「しょっぱく、こってりとした、香ばしい」味が表現された魅惑的な一品が生まれる。

客をさらにとりこにしているのは、客家人のおもてなし精神があふれた無料の「地瓜鶏油拌飯(サツマイモの鶏油かけご飯)」だ。これは、江家の曽祖父の時代から受け継がれてきた伝統の味で、茶葉工場の従業員にお腹いっぱいになってもらい、力を補給して働いてほしいとの心から生まれたもの。レストランでもこの情熱とおもてなしの伝統が引き継がれている。「客がどれだけ食べても困らないが、お腹いっぱいになってもらわないと困る」というスタンスだ。客の多くは店に入るや否や、セルフサービスのサツマイモご飯をお椀によそう。そして、じっくりと煮込んでとった鶏の油と醤油をご飯にかけ、よくかき混ぜると、香り豊かでもっちりとした昔懐かしい一杯ができあがる。

翠玲さんが店を継いだ後は、現代人のヘルシー志向に合わせて一部のメニューを薄味であっさりとした味付けに変更し、健康的な食事を意識した。翠玲さんが生み出した客家の創作料理「涼拌蕨類(山菜のピーナツ和え)」は、餅にピーナッツパウダーを合わせた客家料理からヒントを得て、山菜本来の苦みと渋みをまろやかな口当たりにしている。「五香醉猪脚(豚足の漢方酒漬け)」は沸騰したお湯で茹でた豚足をぶつ切りにし、数十種類の漢方調味料と酒に浸した後、よく揉んで味をしみこませ作る。脂っこくなく、プルプルとした食感が楽しめる。客家の伝統料理「桔葉粉腸(キンカンの葉と豚の腸のスープ)」は、自家栽培の新鮮なキンカンの葉を入れた料理で、チキンスープをベースに生姜の千切りとクコの実、「破布子(木の実の漬物)」など体にいい食材といっしょに炒めた。口に運ぶとキンカンのさわやかな香りが広がり、スープはすっきりとした甘みを感じられる。

「客家小炒(客家炒め)」も欠かせない。豚のバラ肉を少量の油でさっと炒め、六割ほど火が通りきつね色になったら、鍋に「豆干(乾燥豆腐)」を入れて弱火で軽く炒める。表面に焼き色がついたら、ふやかしたスルメと「黒豆豉(トウチ:発酵させた黒大豆)」、ぶつ切りにしたネギを順に加え、醤油とトウガラシ少々で味つけして作る。食感も味も奥深い一皿だ。

大江屋では本場客家の山の味が味わえるほか、自家製の上質な茶葉を愉しむこともできる。古色蒼然とした赤レンガ造りの店内には様々な客家伝統の品が残され、客家の歌謡曲がゆったりと流れる。二階に上がり遠くを望めば、二七〇度ぐるりと取り巻く青々とした山の景色が広がり、「油桐花(アブラギリ:見ごろは四月中旬~五月上旬)」の季節には山一面が真っ白に染まる美しい景色を眺めることができる。二代目の江増偉さんは「南桃園エリアには客家料理のレストランがたくさんあって、よりどりみどりです。うちの店の最大の特色は何といっても周囲に広がるすばらしい景色。心ゆくまで、この絶景を五感で存分に味わっていただければと思います」と、自信いっぱいに語る。

茶葉栽培から料理に至るまで、テーブル八卓から始まり必死にやってきた店は、今では地域を代表するレストランになった。大江屋は堅実で質素で、なおかつ温もりある客家精神を発揮し、客家料理の香りを山中に漂わせ続けていく。

6028花園景観餐廳(レストラン)
03-489-6028
桃園市龍潭区大北坑街1998 巷 139 号
10:30-20:30 不定休(食事の提供は19:00まで。)

大江屋客家美食館(レストラン)
桃園市龍潭区大北坑街1998巷65号
03-479-4547、03-479-6981
11:30-14:30 、17:00-21:30 (食事の提供は20:00まで)

幸福鹿時尚美食館(レストラン)
03-475-2767、03-475-2878
桃園市楊梅区環東路52 号
11:00-14:00、17:00-21:00(食事の提供は20:00まで)

ぶらり寄り道:乳姑山の夜景
日中は大北坑で茶園を散策したり、花畑を楽しんだり、古い建物を巡ったり、客家グルメを堪能したりした後、夕方になったら車で約5分のところにある乳姑山へ行くのがおすすめ。桃園一の夜景が楽しめるとっておきのスポットだ。

「乳姑」というのは客家語で乳房を意味する。広がった山の形が乳房に似ていることから名付けられた。標高わずか400メートルの山だが、条件に恵まれた尾根地形で、龍潭から北の何万もの家の灯りが目の前にきらめく絢爛たる夜景を目にすることができる。天気のいい日には遠くに台北101も望める。」

桃園客家の里を旅する

近年、台湾政府は「台三線客家ロマンチック街道」を積極的に打ち出しています。これは、台北市から屏東県をつなぐ主要道路「台三線」周辺の開拓の歴史や、そこに暮らす人々の文化、産業を結集した国家規模のプロジェクトです。その狙いは、文化的価値を高める政策により、客家の産業と経済を振興させることにあります。台三線は主に山地を通るため、「内山公路」と呼ばれています。桃園には新屋、楊梅、平鎮、龍潭、中壢、観音、大園、大渓などの客家集落がつらなり、これら地域を合わせた客家人口は台湾で最も多い八十五万人です。さらに、桃園は山岳エリアや海浜エリア、賑わいを見せる都会など様々な姿を併せ持ち、豊かな生活と文化、歴史に満ちた多彩なエリアです。

桃園は台三線随一の客家都市ということもあり、より多くの人の関心を引き寄せ、客家文化の発展に参与する責任があると考えています。そこで、特別に本書『台三線の第一歩 桃園客家の里を旅する』を出版し、客家の里・桃園に息づく人や物語、考え方を見つけ、建築や産業、アート、まちづくりなどの視点から、客家の里に広がる美しい風景を紹介していきます。
 

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