父・林文経さんと息子・林和春さんの二人が、茶摘み機上の採れたて茶葉を軒先に素早く並べ、午後の強い太陽のもとに晒している。実際、茶摘みの作業は正午には始まる。日光で生葉を乾かした後、室内で茶葉を揉みこんで撹拌してから、棚に茶葉をしばらく置いて発酵させる。その後、茶葉を高温で炒って発酵を止め、さらに機械で揉み込む―。こうした作業は日差しや時間との戦いで、通常は深夜までかかる。途中どこかで手を抜けば、すぐさま品質に影響してしまうのだ。「製茶というのは大変で骨の折れる作業なんです」と文経さんは語る。
機械を使って最高の茶葉を確実に摘む
海を渡り台湾へ辿りついた客家人の多くは、丘陵や山の斜面で農耕を営み、生計を立てた。龍潭に住む客家人たちは、さらにお茶産業を龍潭に持ち込んだ。龍潭は丘陵が多いだけでなく、特殊な酸性の赤土だったことから、茶葉を育てるのにもとても適していた。そのため、龍潭茶の名は日本統治時代にはすでに国内外に広まり、緑茶や紅茶が世界各地に輸出されていた。龍潭にある多くの老舗茶葉工場は、今も変わらず茶葉の香りを漂わせている。文経さんの製茶工場「長生製茶廠」はその一つだ。
文経さんは桃園の茶葉栽培の達人で、和春さんはは台湾で機械摘みを広めた先駆けである。摘採時、二人は慎重に機械の高さを調整して網を固定する。問題がないのが確認されると、次にブンブンというエンジン音が一気に鳴り、赤い茶摘み機が茶園内をぐるぐると回り始めた。正確にコントロールされ、均一な長さの茶葉が一瞬にして網の中に落ちていく。それはまるで兵隊が掛け声を発する時のように、すばやく確かな動きだ。
文経さんが茶葉栽培を始めてから、もう五十年あまりになる。文経さんによれば、茶葉の品質は正午から午後二時までに摘んだものがベスト。だが、昔は摘採作業はすべて手作業に頼っていたため、朝八時には摘み始めなければならず、その作業は午後五時までかかったという。そのため、摘んだ茶葉の質はばらばらだった。今では息子の和春さんの薦めで茶摘み機を使うようになったため、陽光がどれだけ照りつけていても、たった一時間で摘み終わる。さらに機械摘みが優れているのは、香りが強く、質もベストな生葉を摘める点だ。また、栽培管理と機械の調整によって、生葉の九割は長さを標準範囲内に収められる。これは、今まで手摘みに慣れ親しんできた茶葉農家にとっては神業のようなものだ。

台湾に来たらおいしいお茶を飲まなきゃ!
和春さんは機械での摘採をほかの茶農家にも広め、人手の共有や摘採・収穫の代行を通じて、農家が茶摘み機での収穫に切り替えられるよう支援している。この二年、「機械摘み作業」を広めようと取り組み続け、茶農家の人材不足を解消する手伝いをすると同時に、摘採の質も向上させた。この「共に働く」という精神が評価され、二〇一七年には神農(模範農家)賞を受賞した。
急須をそっと持ち上げ、一本の美しいカーブを描いて注ぐと、魅惑的な黄金の色合いとはちみつの香りが湯飲みからあふれ出す。客人は湯飲みを持ちあげて蜜香紅茶を啜ると、なんとも言えない満足げな表情を見せた。
台湾の製茶技術と茶葉の質は世界で一、二を争います」。和春さんは、摘採の機械化のほかに、販売ルートの開拓こそが茶葉産業に開けた未来をもたらすのだと考えている。製茶工程の改良と摘採の機械化の導入によって大幅に生産コストを下げ、中国やベトナムからの輸入茶に負けない価格競争力をつけた。さらには、お茶を扱う飲料店や特色のあるレストランとの連携を始め、台湾の茶系飲料市場を一歩一歩手中に落としている。「台湾にはおいしいお茶があるのだから、もっと多くの人に知ってもらうべきなんです!」と和春さんは自信をみなぎらせる。
洋菓子に茶を合わせ、茶をおしゃれなものに
台湾初の利き茶師と台湾初の台湾茶の師範はいずれも桃園出身だ。龍潭で製茶業を代々営んでいる荘栄熙さんとその娘である荘恵玟さんの親子である。親子が営む「茶・山行」は、台湾茶の文化を広めることを使命として、気軽に参加できるレッスンを開講し、消費者が茶葉を知り、楽しみ、おいしいお茶を入れる方法を伝授している。伝統的な台湾茶への固定観念を大きく覆し、その楽しみ方を復興させることが目標だ。
恵玟さんは、台湾人は新しい味への受容性が高いと指摘し、若者に台湾茶の味を受け入れてもらうのは実は難しいことではないと話す。「コーヒーといえばおしゃれでロマンチック、ハイセンスなイメージがありますよね。なのにお茶はどうしてだめなのでしょう」。若者をお茶にひきつけるコツは手作りスイーツを合わせることだ。どのデザートにもそれぞれ合うお茶があり、それぞれに味わいがある。「お茶にはそれに合う食べ物が必要です。両者が互いに味を引き立て合うのです」と強調する。
例えば、甘ずっぱい「橙香司康佐鳳梨果醤(オレンジスコーンのパイナップルソース添え)」には、ほのかに蜜の香りのする冷たい「赤賦ウーロン茶」が合う。ナッツの香りの「焦糖香蕉起司(キャラメルバナナチーズ)」には浅煎りウーロン茶「経典伝承」がぴったりだ。おいしいお茶には脂っぽさを和らげる効果がある。すっぱさが特徴の「檸檬起司干邑磅蛋糕(レモンチーズのパウンドケーキ)」には浅煎り茶は合わない。合わせるのは「台茶18号紅茶」だ。深煎りなので、お茶の香りとスイーツのすっぱさが口の中で完璧なハーモニーを奏でてくれる。

奥深い茶の味わいを体験
お茶を食事に合わせるのにもコツがある。客家料理は脂っこく、塩分が強めなので、深煎りの茶葉が合うという。例えば、紅茶なら「紅烏龍」や「蜜香紅茶」がいい。刺激性物質とカフェインが少なくまろやかなうえ、脂っこさも取り除いてくれる。酸味の強いフルーツ系スイーツやケーキの場合は包種茶などの浅煎りタイプの茶葉は避けたい。スイーツの酸味がお茶と化学反応を起こし、口の中の味蕾も変化してしまうので、お茶が酸っぱく、渋く感じられ、飲みにくくなるのだという。
お茶の奥深さ、合わせ方による千変万化―。その奥義はプロのテクニックによってうかがい知ることができる。「茶・山行」では、最高のお茶を味わうだけでなく、茶の師範の第一人者からとっておきの技をいくつも学ぶことができる。
龍潭茶の里に漂う茶の香りは非常に心地いい。「風がそっと吹くと、茶園のそば並ぶソウシジュ(相思樹)の葉がゆらゆらと揺れながらサワサワと音を立てる」。文筆家・鍾肇政の描く龍潭の素朴な茶の里の風情が、旅の途中ゆったり流れて漂う。■
茶・山行
03-470-0296
桃園市龍潭区五福街35号
10:00-20:30、水曜定休日
東方美人茶
二十四節気の一つ「芒種(旧暦4月初旬から5月下旬の間)」前後になると、俗に「浮塵子」と呼ばれる虫「ウンカ」が茶園に大量に出没する。新芽の液を吸われた茶葉はくるりと丸まり、変色して成長が止まってしまう。そこで、倹約家で働き者の客家人はその発育不全の茶葉を高萎凋(茶葉をしおらせること)、高攪拌し、70%まで高発酵させてみた。すると意外なことに、ハチミツや熟した果物のような香りのある茶が生み出された。この茶葉はかつて日本で驚くほどの高値がついたという。その後イギリスにまで伝わり、あまりのおいしさに驚いたイギリス女王は、透明のカップにゆらゆらと揺れる縦長の茶葉の姿が美しい女性のように見えたことから、この茶を「東方美人茶(オリエンタルビューティー)」と名付けた。
ぶらり寄り道:龍潭大池
龍潭最大のランドマークであり、池の水面がきらめく風景を楽しむことができる。池の人工島に建つ「南天宮」には主に関聖帝君(関羽)、観世音菩薩、玉皇大帝、三官大帝(天官、地官、水官)が祀られている。湖面歩道を通り抜けると宗廟建築の美しさを眺めることができる。周辺にある文物館と案内所では、龍潭一帯の客家の町の歴史を伝える古い写真が展示されているほか、週末には水上散歩道で路上アーティストによるライブパフォーマンスも見られる。
龍潭大池サイクリングロードは、龍潭大池から大渓老街(古い街並み)まで続き、途中、龍潭の乳姑山や石管局、三坑自然生態公園を通りかかる。乳姑山は龍潭の客家グルメエリア。石管局には美しい広大な芝生が広がり、子どもたちにとっては存分に走り回れる天国だ。三坑自然生態公園は三坑老街からほど近い場所にある知られざる観光スポット。日本統治時代に渡り船が頻繁に行き来していたふ頭で、その後河川敷に泥砂が堆積したため徐々に歴史の舞台から退いていった。ここからは今でも遠くに優美な山岳を望める。
03-479-2375
桃園市龍潭区上林里溝東100-1号
ぶらり寄り道:知鳥咖啡(カフェ)
シンプルでさわやかな印象の日本風食堂スタイルで、あたたかさが漂う。文化的で洗練された雰囲気も色濃く、和春さんはよく家族を連れてやってきては、のんびりとした時間を過ごしていくという。店内ではブランド農園が生産した豆を使ったスペシャルティコーヒーを提供しているほか、厳選した天然食材を使った安心でおいしい手作りスイーツも楽しめる。また、不定期で食の安全問題に関する報告会も開催している。
03-396-2775
桃園市亀山区興華五街75号
9:30-18:00