台湾府城に位置する五條港は、かつて商いの重要窓口であった。当時の中国大陸から移民してきた同姓の諸世帯が集住する港周辺では、各々故郷の信仰にまつわる廟を建てていた。五条港南港にある水仙宮の市場は、廟を中心として、周りに大勢の人の往来によって、現在の形に徐々に変化していったのだ。水仙宮市場は台南市内の中心に位置し、市民の生活の拠り所であり、更には潤沢なおかずが並ぶ地元府城人の食卓となっている。
バイクのホーンの音と共に、水仙宮市場へ買い物に行ったり、市場の廟で当帰湯や土魠魚羹(サワラ系白身魚のから揚げのあんかけ)を食べたりすることが、台南人の朝の日常である。「台南人にとって、水仙宮は“廟に行く”ではなくて、“市場に行く”の感覚なんです。」大家族の中で育った台南生まれの蔡季芳(ツァィ・ジー ファン)さんは、巷では「阿芳(アーファン)先生」と呼ばれている。彼女によれば、飲食の字典にある一つ一つの言葉は、市場での実践中で積み重なって出来たものなのだ。季芳さんは広大な敷地面積を誇る水仙宮市場の通路や露店・屋台も全て知り尽くしているのだ。彼女が言うには、幼いころから母とよく市場で買い物をしていて、家の食卓に出てきた料理や味の元を辿れば、全てこの市場から来ているのだと。
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水仙宮市場で骨抜き済みのサバヒーを一丁買おうとすれば、魚屋の人が手際よくサバヒーが鱗を取り、腹を割り、頭と腸を捌き、約200本ある魚の骨を抜き、薄いサバヒーの皮も手慣れた手つきではぎ取ってくれる姿を見ることができる。これは市場独特で、それぞれの味を楽しめることができるのだ。また、台南地元の味を語るのであれば、重さ数キロにも及ぶサワラは欠かせない代物であろう。季芳さんが言うには、「台南人にとって、サワラはおふくろの味。私の母は年中行事になると丸々一匹のサワラを買って捌いては、ほかの家にお裾分けしていました。」とのこと。また、自分の母が気前よくサワラをおすそ分けする光景は、台南という土地において、家と家との繋がりを保つ行為だと、季芳さんは語っていた。
露店や屋台では、様々な練り物が売られており、機械で切断した小さいと比べて、市場で販売されている手作りのかまぼこは、身が厚く、一本丸々で売られている。これは、調理する際に好きな大きさに切ることができる仕様になっているからだ。その中でも、手作りの魚冊(魚のすり身巻き)こそが、知る人ぞ知る隠しメニューなのだ。魚のすり身の中に片栗粉を少しと、その上に新鮮なお肉、セロリを乗せて巻いた一品である。季芳さんは、「台南の伝統的な汕頭魚麺(シャン トウ ユー ミィェン)のお店では、綜合丸湯を注文すると、外はカリっと、中はもちもちのつみれや、コクのある味わいがある魚冊も堪能することができます!」と紹介していた。また、台南の味を代表する鍋焼意麺(グゥォ シャオ イー ミィェン)を作るのにも欠かせない食材である。
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食べ物が人と人とのコミュニケーションのツールだとすると、市場ではその奥深さを具現化することができる。季芳さん曰くこれが「食べ物の合言葉」だそうだ。
同じ肉まんであっても、地元台南人が作り出した肉まんは、台南の味が入っているのだ。「誰も正確に味の秘密を説明することはできませんが、口に入れた食感で。台南人が作ったかどうか分かるんです。」つまり、なんとなくで言葉にできないあの感覚は、一口食べて初めて分かりえるものなのだ。
市場のおばさんが作る大きなタロイモからできる芋粿(オーグェ)が放つ濃厚な香りの秘密は、お椀いっぱいいっぱいの肉燥(バーソー)にある。芋粿、麺類、碗粿(ワーグェ)、蚵仔煎(オアチェン)、肉燥は、台南の至るところで見かけることができる。「もし、私の著書でこれらの料理を見かけたのなら、私の味の記憶が指している意味が分かると思います。あと、全ての美味があの市場に詰まっていることも。」

季芳さんが言うには、旨いが故に舌が肥えてしまう。「食」こだわりを持ち、食に対する感覚を研ぎ澄ませることで、料理の達人になれるのだと。「台南のグルメは、一週間かけてもたべきれないくらい様々なものがあります。なので、台南人は家で自炊する機会があんまりないのですよ。」
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同じローカルフードでも、台南人にとってそれはを食すことは「おやつを食べる」感覚であるらしい。お腹を満たすためというよりも、ただ何かを口に頬張っているという感覚に近いのだ。「台南人の性格は、体裁を気にするので、それが飲食文化に反映していのかと思います。例えば、羹スープを鍋の中からお椀に盛り付ける際、台湾黒酢とごま油などの調味料を料理の『頭』からかけます。そして、仕上げにパクチーをのせたりして、食べ物自体の『見栄え』を良くしようとしています。」それはまるで、化粧のように、アクセサリーを付けるかのように、露店や屋台のローカルフードたちは、最後の一工夫で、各々の味を出しているのだ。
「『頭』からかけることと『見栄え』を良くすることで、パーフェクトで納得のいく料理が出来上がるのです!」熱々の碗粿が蒸篭から炊き上がり、滷味(ルーウェイ)で作った粿底を加え、甘いソースをかければ、鼻に残る肉燥の香りが出来上がる。これこそが台南の味なのだ。

料理案内人 蔡季芳:
「水仙宮市場は、私の味蕾の冒険を切り開いてくれました。府城には私の記憶が埋め込まれています。所謂、食べ物の合言葉は、生活と深く、そして強くつながっているんです。ここに来たら、遠慮しないで、甘さと塩辛さと古都独自が詰まった味をの沢山堪能してください。」
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*原文作者:楊芷菡 微笑台湾『2018 誠食款款行 Ⅲ』より抜粋,原文出處