借鏡國際 日本静岡の地方創生|「創造舎」がつくる暮らしやすく旅しやすい理想の街区

商店街の賑わいが過去のものとなった今、小さな建築設計事務所がひとりでに老舗を再生し、新たな店舗を呼び込み、さらには郊外の伝統工芸まで体験できる場を生み出した,人の流れを呼び戻し、旅にも暮らしにも心地よい日常が、この街に宿るようになった。

日本静岡の地方創生|「創造舎」がつくる暮らしやすく旅しやすい理想の街区

地元のおじいちゃんおばあちゃんのニーズから着想を得て、創造舎が理想の人宿町の街並みをつくり上げた。

JR静岡駅から歩いて10分ほど。かつて映画館や飲食店が軒を連ねた静岡市人宿町は、時代の移ろいとともに静けさを取り戻しつつあった。そんな街に一軒の建築会社が移転してきたことをきっかけに、個性豊かなレストランやカフェ、美容室、アートスペースが次々と加わり、地元の人々の日常を彩りながら、再び人の往来を生むようになった。

「人宿町マート」は、築70年の古民家をリノベーションして生まれた小さな商業エリア。複数の店舗が集まっている。

その変化を牽引したのは、建築設計事務所「創造舎」。代表の山梨洋靖氏は静岡県出身。20代で大手建築会社に入り、働きながら建築士の資格を取得、約10年の経験を経て独立。住宅や店舗など幅広く手がけ、そのデザインは高く評価されている。「学生時代はよく遊んでいたんですよ」と謙遜するが、建築専門の社員たちを率いて実力で道を切り拓いてきた。

建築設計事務所「創造舎」の代表・山梨洋靖。

創造舎は2007年に創業し、2011年に静岡市人宿町へ移転。もともとは「まちづくり」など考えていなかったが、オフィスの上階に自宅を構え、仕事も暮らしもこの地に根差したことで、より快適に生きる場所を自分たちの手でつくりたいと考え、会社周辺から理想の街をつくるプロジェクトが始まった。

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ニーズを掘り起こし、新旧のバランスを取る

人宿町を舞台に始まったのが「OMACHI創造計画」。創造舎は建築主、設計者、そして大家という多重の立場を担い、資金はほとんど銀行からの借入でまかないながら、古い建物をリノベーションしたり新築したりして、テナントに貸し出してきた。10年以上かけて誘致した店舗はおよそ110軒にのぼる。「リスクは高い。でも計画を自分たちのペースで進められることが何よりの利点です」と山梨氏は語る。

「人宿町マート」内のバー「静岡醸造直営 人宿酒店 HITOYADO TAPROOM」。

まず重要なのは、地域住民が何を求めているかを把握すること。文房具店、ラーメン屋、雑貨店──地域の「日常」を支える店が必要だ。過疎化が進む土地では、「場所」があるだけでは足りない。「人」がすべてなのだ。

空間があっても、店をどうやって呼び込むか。まずは静岡市内の有名レストランのシェフを誘い、店づくりを共に構想。そうした事例を実績として、さらに他の店にも声をかけていく。「これまでの110店舗、すべて僕が直接会いに行きました」。山梨氏と社員たちは、少人数ながら誠意で人の心を動かしてきた。

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2022年2月にオープンした屋外フードエリア「HITO/THE YARD」。

「東京の真似ばかりの開発には意味がない」。OMACHI創造計画では、静岡にしかない街をつくることを目指し、既存のものを大切にしながら、新築か保存かを丁寧に考えている。

さらに、地方創生ではよく「勉強会」や「話し合い」が先行するが、本当に重要なのは、責任をもって実行する「キーパーソン」の存在だという。山梨氏は責任者であり、社員もプロジェクトの担い手であり、皆が同じ目標に向かって楽しみながら動いていることが、持続の鍵だ。

2018年からは、かつて地元商店街が行っていた「駿府人宿町人情夜祭」を引き継ぐ形で、「人宿町人情祭」も開催。住民や観光客が一体となって盛り上がるイベントとして、地域の活力を取り戻している。

郊外とつながる、伝統工芸保存の試み

旅の途中で街の暮らしと自然の癒し、両方を味わえたらどんなに魅力的だろう。創造舎はそれを実現しようとしている。

OMACHIから車で15分ほどの駿河区泉ヶ谷(泉谷)は、自然に触れられるエリア。山梨氏は、ここで静岡市から委託された「駿府の工房 匠宿」の運営を担うことになった。彼は街のにぎわいと郊外の魅力をつなげる構想を描き、地元の味や工芸体験を組み合わせた独自の観光スタイルを形にしつつある。

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駿河区泉ヶ谷地区に位置する「駿府の工房 匠宿」は、日本最大級の伝統工芸体験施設の一つ。

匠宿では、創造舎が以前から関わっていた陶芸や染色の職人を呼び寄せた。富士山という強烈な観光資源をもつ静岡だが、それ以外の魅力も育てたい。伝統工芸体験はその一助になると考えている。

ファストファッションが主流となり、手仕事の価値が軽視されがちな中で、山梨氏はこう言う。「30年、50年後には、手工芸は貴重な文化として見直されるはず。今のうちに残しておくことが私たちの課題です」。

そのためには、職人を育てるだけでなく、「弟子」を増やすことが必要だと考え、「10年で100人の弟子を育てる」ことを目標に掲げている。宿泊施設を運営したいわけでも、観光だけにフォーカスしたいわけでもない。創造舎が目指すのは、静岡県の伝統工芸に命を吹き込み、次の時代へと手渡すことなのだ。

「工房 竹と染」では、駿河竹千筋細工や竹染めの体験ができる。

花器「こだま」作りを体験する様子。

ただし、喜びの裏には苦労もある。創造舎が手がける店舗は家賃収入を得る形だが、匠宿は直営で、100人規模のスタッフを抱えている。しかも、手工芸の技術保存は売上向上には直結しない。それでも静岡市が文化継承のために支援をしてくれているからこそ、技術保存と後継者育成を進められている。

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地方創生の原点は、人にある

「地方創生において一番大切なのは、人を育てること」。山梨氏は語る。建物や風景ももちろん重要だが、地方にとって最も大切なのは「誰がその場を担っているか」である。

現在、匠宿のみ行政の補助を受けており、他のプロジェクトはすべて創造舎が背負っている。「案件が多いほど良いという考え方もあるが、それでは責任が分散されてしまう。小さなことから一歩ずつ、確実に足元から始めることが大事なんです」。

静岡市からの運営補助を受け、すべて直営で手工芸技術の保存に取り組む「駿府の工房 匠宿」。

大都市ではないけれど、小さな町には小さな町の誇りがある。一軒一軒、地域に必要な店を丁寧に生み出すこと──それこそがOMACHI創造計画の核だ。

「まずは総合計画よりも、地元のおじいちゃんおばあちゃんのためにレストランやスーパー、美容室やパン屋などをつくることが重要です」。

地方に人を「留め」、新しい人口を「呼び込む」には、コミュニティの構成も鍵になる。若者の東京志向が止まらないなか、創造舎の今後の目標は、若い家族が子育てしやすい環境をつくることだ。

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「ギャラリー Teto Teto」は、ギャラリー、日本の伝統工芸品、現代の生活雑貨が融合した複合ショップ。

「最近、どうしてもとんかつ屋を増やしたくて」と笑う山梨氏。店主を探し、あちこちを訪ね歩いたという。どんな困難にもくじけず、自分の理想とする日常を、この地に少しずつ築いていく覚悟が、言葉の端々から伝わってきた。

*作者:沈若瑄,2025微笑季刊春季号『街區迷個路』より抜粋,原文:日本靜岡地方創生|從在地阿公阿媽需求出發,看「創造舍」如何打造宜居宜旅的理想街區

おすすめスポット

駿府の工房 匠宿
住所:静岡県静岡市駿河区丸子3240-1
公式サイト:匠宿

OMACHI創造計畫
公式サイト:OMACHI創造計畫

創造舍
住所:静岡県静岡市葵区人宿町2丁目6-10 SOZOSYAビル2F
公式サイト:創造舍

編集:曾詠榆

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